机につっぷして、眠っていたらしい。
長く押し付けていた額がじんじんと痛み、肩の辺りを寒気が襲った。
顔を上げると、窓の外で雪が降っている。彼女が雪を見るのは実に五年ぶりだ。
ふんわりと振っている雪は、滅多に触れたことがないからかも知れないが、温かそうな印象をもたらした。
ちらりと視線を脇に飛ばすと、暖炉で炎が照っている。時折、薪のはぜる音が響いた。
とても長い間、たくさんの夢を見ていたような気がした。
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とある少年のために、何年も何年も旅する夢――
おかしな学びやで、とある少年を毎日からかう夢――
妙に冷たい感じのする場所で、とある少年の奥さんになる夢――
好きだった人に裏切られる夢――
どこかの城でお姫様になる夢――
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どれもこれも奇妙で、必ず『とある少年』が出てきたような気がする。とある少年……
ああ、と彼女は思った。
最後に別れてから、どのくらい経つのだろう。すごく長い間、会っていないような気がする。
彼女は彼の事を思い出し、自分がそれを寂しがっている事に気づいてちょっとびっくりした。
いや、寂しがっているというよりは、何か、心の中に埋められない空白を見つけたような気分。
あんなにはた迷惑だったのに。と彼女は思い出した。
考えてみれば、傲慢だし、勝手に自己完結しちゃってるし、やる事はあくどいことばかりだし、ちっともいい所なんて見当たらない。
なのに彼女は、彼を思い出して胸を痛めるのだった。
今までの夢がひどく幸せだったということに気づいて、彼女は肩を落とす。
そう、どんなに嫌な夢でも、幸せな夢でも、彼と会えることそのものが幸せだった。それほどまでに、……
「……シャリ……」
彼女は細い声で、つぶやいた。
会いたい。会いたい。会いたい。
その肩に、さりげなくぽん、と手が触れた。
「何してるの?」
笑いをふくんだ声。
彼女は振り向いた。
彼女は、自分の目が信じられなかった。
掠れる声で、ほとんど吐息のように、彼女は口を開く。
「シャリ……?」
「やあ。どうしたの? 幽霊でも見たような顔して」
彼女は泣こうか笑おうか迷って、結局泣きながら笑うことにした。
彼が夢でなく目の前にいてくれる事が、奇跡のように思われた。そこに来て初めて、彼女は自分の気持ちに気づく。
ずぅっと冷たかった胸に、温かいものが戻ってきた。
「あ、久しぶりだったっけ? 今日は、特別な日らしいから来たんだけど。僕の顔なんて見たくなかった?」
愛しさが込み上げた。顔を笑顔で一杯にして、彼女は祝福した。
「大好きだよ、シャリ!」
メリー・クリスマス!