林檎にくちづけて、さよなら - 1

 太陽がちょうど真上に昇った頃。エンシャント、広場。最も衆目を集めやすいその場所で、二人の人間が対峙している。
 一人は熊のような長身と、鍛え上げられた肉体を持つボルダン、ゼリグ。
 もう一人は、冬の朝の湖を映したような髪を肩の辺りまでのばした少女、シャロン。彼女はこのバイアシオン大陸でも一位、二位を争うほどの実力を持つとされる冒険者だ。
 シャロンは剣の柄を握る手に力を込めた。こめかみを伝う汗に身震いしたくなるのをこらえ、目の前の敵を――ゼリグを睨みつける。
 彼もまた、戦士としてシャロンの前に立ちふさがっているのだ。

 シャロンはちらりと右に視線を飛ばした。三人、見知った顔がある。エステル、レムオン、レルラ=ロントン……いずれも、シャロンの仲間、……だった人物たちだ。愕然とした表情でこちらを見ている。
 この変わり果てた姿を見て、愕然としない方がおかしいか。


「がんばってシャロン! そこだ、やっちゃえ! アハハハハ!」
 張り詰めた場に、全くそぐわない朗らかな声が響いた。

 シャロンの隣で、無責任な野次を飛ばす少年。黒髪、黒瞳、黒衣の三つそろった夏にはやたらと暑苦しい姿形をしているが、この場で一番涼しげな顔をしているのは、恐らく彼だ。
 シャロンは半ば殺意を込めて少年――シャリを睨む。
 すると視線が返ってきた。もっとも、彼から返されたのは殺意ではなく揶揄の色だ。
 シャリはくるりと中空で回ると、シャロンの視界から一瞬消えた。――と思った時には、シャロンは背中にへばりついた何かのおかげで重心を崩されそうになり、慌てて体制を立て直した。
「ほら、どうしたの? 早く僕のために働いてよ……フフっ」
「何をふざけてっ……!」
 背中に抱きついてきたシャリに抗議しようとするが、目の前にいたはずのゼリグが消えているのに気づき、シャロンは焦った。
「……右かっ!?」
 とっさに勘だけで右に剣を振る。手ごたえはないものの、すぐ真横に迫っていたゼリグが飛び退り、再び二人の間に距離が戻る。

「ぬぅ……」
 悔しそうな声がゼリグの口もとからもれた。お互いに必死なのだ。

「シャロン……」
 か細い声に横を見ると、エステルが身を切られるような顔でシャロンを見ている。

 ……でも、もう、戻れない。本当にごめんね、エステル……

「っ、はぁぁぁぁっ!」
 シャロンは何かを振り切るようにゼリグに向かって駆けた。ゼリグは迎え撃つような体制――カウンターか!?

「シャロン!」
 その声を聞いた瞬間、シャロンは思わず動きを止めた。誰よりも、何よりも愛しい人の声……レムオンのすがるような声に。
「うぉぉぉっ!」
「っ!」
 しまった、と思うと同時に視界一杯にゼリグの顔が広がり、腹部を貫かれるような衝撃が走った。
 逆らう間もなく剣は手の平から離れ、地面をボロ布のように転がって、シャロンは石畳とキスをした。口の名に鉄臭い味が広がる。剣が地面を走り、あたりに耳障りな音が響き渡った。

『シャロンっ!』

「どうしたの? 君の実力はそんなもんじゃないでしょ? あ、もしかして迷ってるんだ。
でも、忘れてないよね。君に戻る場所はないってこと。面倒くさいからさぁ、さっさとやっちゃいなよ」
「……っ、……」
 焦点がやっと戻ってくると、いつの間にかシャリの顔が、息がかかるほど間近にあった。口を開こうとしたけれども、うまく動かない。

 勝手なことばかり言って――!

 シャロンの悔しい思いが伝わったのか、シャリは目を細め、秀麗な面差しに、やはりからかうような笑みを広げた。
「じゃさ、しょうがないから僕が手伝ってあげよっかな?」

 シャロンはシャリを相手にせず、首を振って立ち上がった。腹部に鈍い痛みが残っている。だが戦えないほどではない。
 そう判断して落とした剣を拾うと、シャロンはゼリグに向けた。
 だが、どうも様子が変だ。
 ゼリグは苦しげに顔をしかめ、その場に突っ立っている。攻撃姿勢を取ろうともしない。

 これは、何か――
 シャロンが思い至ってシャリを振り返ると、彼は促すように視線でゼリグを指した。

 ごくりとつばを呑み、シャロンは、動かない……いいや、動けないゼリグに向き直る。

「シャロンっ! シャロン、こんなのおかしいよっ……どうしてシャロンがシャリなんかの手下になるんだよっ!」
 悲鳴のように上がった声。
 エステル……

 シャロンはエステルに視線を移した。懐かしい仲間。でも、シャロンにはもう、そこにいる資格がない。
 シャロンはたまらなくなって目を逸らした。
「シャロン、今からでも遅くないと思うよ。戻ってきてよ」
 レルラ=ロントンがいつもの優しい声音で言った。
 だけど、私はもう戻れない……だって、私はオイフェを殺してしまった――……あの二人に許される権利なんて、ないのだから。だけど、……
 シャロンは残るもう一人、レムオンと目を合わせた。とたんに目が潤んでくるのが、自分でも分かる。
「シャロン……」
 シャロンは目を逸らし、ゼリグの方を見た。どうしようもなく息が苦しい。
「くすっ、どうしたの、シャロン。簡単でしょ? 止めを刺すだけなんだからさ」
 シャリが言った。

 でも、とシャロンは思う。
 例え罪を犯したからと言って、再びそれを重ねていい、理由には……ならないんじゃない?
 それなら、私は……

 シャロンは夢の中にいるような気がした。剣を持つ両手が震える。その先を、シャロンは、何か大事なものを失うような、ぞっとする心地と共に――シャリに向けた。
「シャリ……やっぱり、こんなことできないわ!」

 シャリは黒い眼を細めて、あやしく笑う。


 数時間前――
 やたらと広い部屋の中央に、巨大な女性の像が立っている。その足元にすがるようにして、布切れをまとった少女が座り込んでいた。

 シャロンだ。

 シャロンは女性像の白い足元に頬を寄せ、虚ろな視線を女性像に投げた。
「……兄様……」
 シャロンはほとんどため息と混じるような声でつぶやき、女性像の足に体をひしと寄せた。
 愛しい兄の顔を思い浮かべ、シャロンはそっと目を伏せる。

 兄様……
 その知恵を秘めた瞳も、時折シャロンにだけつむぐ温かな春のような声も、シャロンにとってはかけがえのないものだ。しかしもう、それも戻らない。
 兄様、あなたの息吹に吹かれるだけで、私の心には春が訪れるのです……しかしあなたに見放され、私の心には永遠に春が来ることなどないように思われます……

「やぁシャロン。気分どう? うわっ、最悪って感じ?」
 場違いに楽しげな声に目を上げると、いつの間にか目の前にシャリが立っていた。シャロンは反射的に、ありったけの敵意をこめて睨み付ける。

 この少年が全ての元凶なのだ。自棄になってついて来てしまったが、それでもこの少年に対する思いは未だ好意的なものではない。

 すると、何が楽しいのかシャリは口元に手を当ててフフフと笑った。
 かっとなったシャロンはもうシャリを見ず、被った布をぎゅっと胸元に引き寄せた。
「そう邪険にしないで欲しいなぁ。僕たち『ナカマ』なんだし。ねぇシャロン。くすくす……」
「……シャリ、黙りなさい。黙らないと、斬るわ」
「ああ怖い。お姉ちゃんがいじめるよ〜」
「黙れって言ってるのよ!」
 シャロンは目にも留まらぬ早さで腰の剣に手をかけ――しかし気がつくと、シャリの顔が目と鼻の先ほどに近づいており、剣を引き抜こうとした手は、冷たい指先に押さえられている。

 シャリがわずかに頭を傾けた。額がコツンとぶつかる。やはり、そこは冷たい。
 間近で見るシャリは、やはり整い過ぎるほどに整った顔立ちをしていた。人形だと自称していた彼は、その面立ちでさえ人形のように……

「剣呑だなぁ。何がそんなに気に入らないの? 僕が君を陥れたこと? ここに連れてきたこと? ……それとも、むざむざ敵の誘いに乗った君自身?」
 シャリの黒い……闇そのもののような瞳は、シャロンにとって絶望の色だ。シャロンはこの瞳を見ていると、巻き込まれ、帰れない場所まで引きずりこまれそうな気がしてくる。

 ……実際、シャロンはすでに帰る場所を失っていた。
 シャロンはとても目を合わせていられずに、こんがらがった気持ちでそっぽを向いた。

「……さぁ。あなたはどう思う? なぜあなたを嫌いなのか分かる?」
 シャロンがそう言うと、シャリは目を細めて笑った。
「うわ、さらっとひどいこと言うなぁ。でもそんな質問、全然君らしくないよ。僕を憎むのに理由が必要?」
 シャロンが驚いて目を見開くと、シャリはふと表情を消してつぶやいた。
「……だけどねシャロン。君の疑問にも、これから行く場所できっと答えが見つかると思うよ」
 シャロンの目の前が真っ暗になった。


 気がつくと、シャロンはどこか開けた場所にいた。
「ここは……?」
 シャロンは辺りを見回してつぶやく。

 強い太陽の光が目にまぶしい。目を細めて見ると、ソリアス像が視界に飛び込んでくる。どうやら広場のようだった。それも――エンシャントの。
 突然現れた二人の人影に、辺りの人々が騒ぎ出した。困って隣を見ると、シャリがいつの間にか宙に浮いている。 シャロンが首を傾げると、彼は笑顔でシャロンの前の方を指差した。
 眉をひそめ、そちらを見ると――立っているのはどこか見覚えのあるボルダンで――

「あなたは……ゼリグっ!?」
「やはりお前だったか……」
 どこか淡々とつぶやいた台詞は、彼らしくもなく覇気がない。彼はオイフェと、ドルドラムとパーティーを組んで闇の神器を集めるために奔走していたはずだ。
 なんでゼリグがここにっ……!? いつも一緒にいるドルドラムはいったい……
「ゼリグ……オイフェのことは、」
「知っている。我の目の前で死んだからな」

「!?」
 シャロンはそれを聞くなりシャリを振り返った。
「シャリ、いったいどういう……」

「彼はね、シャロン。ジュサプーに操られて、大事な仲間を殺しちゃったんだよ。
正気に戻って、オイフェを助けようとしたところまではカッコ良かったんだけどね。
ちょっちジュサプーに協力してあげたら、あっさり支配下に戻っちゃってさ。
その後は君も知っての通り、アズラゴーサは見事復活と相成りましたってワケ」
「シャリ……お前だけは許さん!」
 ゼリグから陽炎のように殺気がたちのぼった。そして止める暇もあらばこそ、シャリに――というかこちらに――飛びかかってくる。
 シャロンはとっさにそのうなるような拳を剣ではじいた。

 しまった、つい……
 シャロンは唇を噛んでゼリグを見やった。案の定、彼はシャロンにもその苛烈な眼差しを向ける。
「なぜ味方をする!?」
「それは……」
「あはははは! さぁシャロン、さっさとやっちゃってよ。
彼はね、前にあんな痛い目に会ってるのに、性懲りもなくまーた逃げ出して、今じゃ、とっても目障りな存在になっちゃったんだから」
「シャリ……」
 シャロンは、胸が強く痛むのを感じた。
「シャロン!」
 シャロンが思考の渦に飲み込まれそうになったその時、ちょうどシャロンの真横から声がかかった。
「エステル……レムオン、レルラっ!?」
 見れば、いつの間にか三人の、……かつての仲間たちが立っている。

 胸が苦しい……でも、あそこに私の居場所はない。

 シャロンはおずおずと二振りの剣を上げ、ゼリグにその切っ先を向けた。

 そうして、シャロンは今この場に立っている。――シャリに剣を向けて。

 この選択が正しいのかどうかは分からなかった。実際、シャロンの足は今にも震えだしそうだし、剣の先は相変わらずゆれている。
 ただ、それでもシャリに剣を向けたのは――相容れないと分かったからだ。例え、オイフェを殺してしまったという事実があったとしても、シャロンは彼等のように軽々と人を殺したりはできないのだ。
「私は……影になれない。あなたには従えない」
「……ふーん。それで、どうするの? 僕と闘ってみる? たった一人で、そこの木偶の坊のために闘うんだ?」
 シャリはふわりと回る。艶のある黒い髪が舞い、そして再びこちらを向いたその時、手には紫色の真っ直ぐな剣が握られていた。
「シャロンは一人なんかじゃないよっ」
 とその時、声と共にエステルが観衆の中を抜け、シャロンのもとに駆け寄ってくるのが見えた。
 シャロンは小さくエステルの名を口にする。胸に不思議な温かいものが湧きあがるのを感じた。
「その通りだ。俺は……お前のためであれば、何も厭わない」
 レムオンと、レルラ=ロントンが駆けてくる。そして以前のようにシャロンの脇に立ち、守るように各々の武器を抜いてくれた。 
「レムオン……レルラ、みんな」
 シャロンは頭を殴られるのにも似た衝撃を受けていた。

 私は、何をくだらないことで悩んだりしていたのだろう。居場所がないなんて、なんで思っていたんだろう。何も、迷う必要なんてなかった。私は、ここに帰ってくればよかったんだから……
 目の奥がじわりと熱くなった。

「――あーあ、やんなっちゃうな。僕だって暇じゃないのにシャロンは裏切るし、面倒なことになるしで、散々だよ。
それに、どうやらま〜た邪魔者が出てきたよ」
 シャリは誰何の声を上げながら向かってきた警衛兵を腕の一振りで蹴散らす。そして改めてシャロンたちに向き直ると、言った。
「なんかもう、いい加減君の相手をするのも飽きちゃったなぁ。ね、目障りだから死んでよ、シャロン」
「あなたなんかに渡すほど、私の命は安くないわ」
 シャロンは決意を込めてシャリに双剣を向けた。それに呼応して、仲間たちの間にも緊張が走るのが気配で分かる。まさに一触即発の空気。
「さぁ、始めようか。何千年も前から繰り返されてきた戦いをね!」
 その声を最後に、シャロンは声を上げて切りかかった。


 ――倒れるわけには行かない……! ここで倒れたら、自分たちに、何よりレムオンに待っているのは死という名の絶望でしかないのだから。
 戦いが始まって三十分も経った頃だろうか。すでに立っているのはシャロンのみという状況の中、シャロンは思った。
 しかし思えども、すでに目は霞み、先ほどからひどい耳鳴りが始まっている。

 不意に眩暈を感じたシャロンは、倒れまいと足に力を込めた。だが、足は自分の物ではないのではと思えるほどに感覚がなく、棒切れでもぶら下げているような感触しか返ってこない。
 シャロンはたまらず膝をついた。歯を食いしばり、悔しさに涙をこらえる。それでも剣を目の前のシャリに向けて、まだ諦めてなどいないことを示す。
「よくも、レムオンを……!」
 弾む息を抑えて言いながらも、シャロンは自分の姿に滑稽さすら感じていた。こんなにボロボロになって、何ができるというのか。それでも剣を捨てることも、諦めることもできない自分が哀れだった。
「ひどいなぁ。先に襲いかかってきたのは君たちでしょ? これって正当防衛だと思うんだよね」
「……」
「にしても、シャロンもがんばるねえ、フフ……、
それってもしかして、そこに転がってるレムオンのためだったりするんだ?」
「当たり前、よ……」
 シャロンは息を整え、再び立ち上がった。なんとかレムオンだけでも、逃がさなければいけない……なんとしてでも。
「ウフフアハハ! そうだよねシャロン。だって、そのために味方まで殺しちゃったんだから」
 シャリはそう言って、はっきりと嘲りの色も鮮やかに笑う。
「そう……そうよ、私は、レムオンのためならなんでもする。だからレムオンのために、あなたに殺されるわけには行かない!」
「あーあ、開き直っちゃったよ。でも、やっとらしくなったね。……それじゃ、そろそろ終わりにしようか、シャロン。
いい加減、こうやって戦ってるのにもうんざりしてきたしね」
 シャロンは地面を蹴って、シャリに肉迫した。素早く剣を振り切り、なんとか隙を作ろうとした、その時――
「っ、うあぁぁああぁ!」
 雷光が迸ったかと思うと、シャロンに全身を針で貫かれるような痛みが走った。意識が一瞬途切れ、気がつくとシャロンは地べたに這いつくばっていた。
 肌がまだ無数の針につつかれるように痛み、シャロンは身動きすらできない。もれそうになる悲鳴を必死に堪えるのが精一杯だ。
 どうしようもできずにいると、誰かの――おそらくは、シャリの――近づいてくる気配があった。途切れ途切れな声が聞こえる。
「さて、お別れの時だよ、シャロン。何か言い残すことはない?」

「……シャ、リ……!」
「最後まで呪いの言葉しか交わさないなんて、僕たちって本当にお似合いだと思わない? ……それだけにちょっと残念だけど、まぁいいや。じゃあね、シャロン」
 痙攣する筋肉を無理矢理総動員して首を上げると、シャリが剣を振り上げていた。今まさにシャロンの頭を割ろうと迫る。
 レムオン、ごめんなさい。

 しかし、それが振り下ろされることはなかった。なぜかシャリは、それを振り下ろす寸前で静止している。緊張に顔を歪めるシャロンを見下ろしているシャリ。シャロンが見る限り、その顔に浮かぶのは……、重大な、それも自分の生命に関わるような重大な何かを知った直後のような、表情の抜け落ちたそれだ。
「え……」
 目が痛くなるほど見開いて、シャロンはシャリの、その表情を見守っていた。シャリがこんな顔をするところを、シャロンは未だかつて見たことがない。
 シャロンは立たなければ、という強烈な思いに駆られ、必死に弾む息を押さえる。

 シャロンがそうしている間に、シャリは不思議そうな、驚くほど邪気のない顔に変わった。
「……?」
 カタンと首を傾げ、何か思いをめぐらせるように視線を空に向けている。……かと思うと、次の瞬間には微笑みを浮かべていた。シャロンがこんな状況で胸をドキリとさせるような、艶やかな微笑みを。
「……ウフフアハハ! もしかしたら、これが運命だったのかも知れないねぇ、シャロン? 僕らが殺しあうっていうのがさ。これはもう、絶対に変えられないことだよ。だけどねシャロン、」
 シャリは一旦言葉を切って、シャロンを見下ろした。
「僕はね、ホントはね、君のことが大好きだよ。だから今は見逃してあげる」
「何を……言い出すの……!」
「あれ、不満? 君の大好きなレムオンだって助かるんだよ。ちょっとは感謝して欲しいよね。まぁいいや。さっきの話の続きが聞きたければ、僕を探しに来ることだね。待ってるよ! クスっ、じゃあね、せいぜい元気でね」
「まっ……」
 シャロンが声を上げようとした時には、もうすでに、彼の姿はなかった。
「シャ、リ……」
 シャロンの視界は、ゆっくりと闇の中に沈んだ。

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