シャロンは大きく伸びをした。さわやかな朝である。ダンをギルドまで送り届け、シャロンは一人、テラネの宿に戻っていた。シャリとは、屋敷のあった場所で別れている。
シャっとカーテンを開き、朝日に目を細めると、彼女は手早く鎧をまとって外に出た。
すると朝日に照らされて広がったのは、……色とりどりの花が何万本と生える巨大な花畑だった。建物はそのままに、地面という地面に花が咲き乱れているのだ。風が吹くと、波が押し寄せるようにざわざわと何色もの花びらが舞い散り、夢のような光景だった。
深呼吸すると、かぐわしい香りが胸いっぱいに広がった。こんな光景を目にすれば、誰でも、きっと世界に絶望していても立ち直れる。シャロンはそう信じた。
もうすぐ人々が起き出して、大騒ぎになるだろう。でもその前に……
シャロンは花の中に埋もれるようにして倒れ込むと、まだ薄く白んでいる空を見た。雲が流れるいつもの光景である。人一人の悩みなんて、この偉大な空に比べれば瑣末なことだ。
シャロンはそう考えて、ゆっくりと目をつむった。もう少しだけ、このまま。
とその時、姿もないのに声だけが、どこからか響いた。
「それは君の願いじゃないね。……じゃあ、答えかな?」
シャロンは、唇を小さく動かした。ある人の名前を、花びらと一緒に空のかなたへと、飛ばした。
END