い、イドウヨウサイ……? 壊れちゃう……?
ゼンッゼンワケ分かんないよ!!
パンクしそうになってた頭が、シャリの一言で一気に爆発したみたいだった。色んな言葉が頭の中を巡って、もう何が何だか分からない。
あたしは思わず、頭を抱えてよろめいた。シャリは穏やかな微笑みを浮かべて、へたり込んだあたしを見下ろす。
「わ、分かんないよ……この町壊しちゃうって……そんなことホントに出来るの!?
移動要塞って何!? ねぇ、説明して!」
髪を振り乱して叫んだ。夜中だとか、みっともないとか、そんなの全然思い浮かばない。
ただあたしは、自分の前に突き付けられたとんでもない謎にうろたえて、押し流される無力な存在だった。
そう、あたしはいつだって無力だった。
……でも。
でもせめて――こんな時くらい、はっきりした答えが欲しいんだ。
あたしはきっと顔を上げた。一筋たれた髪を邪魔とばかりに払いのけ、シャリを睨む。
事情は全然分かんないし、今聞いたことの凄さもよく分からないけど、とにかくシャリがとんでもない状況になっちゃってるって言うのは分かった。例えその「とんでもない」をシャリ自身が作り出していたとしても、それでもシャリが大変なら、あたしはどこまでも力になりたい。
そこで気づいた。
いつの間にか最初の目的なんて忘れて、あたしはシャリに縋ってる。別に直接肩とかを掴んだ訳じゃない。だけど確かに、あたしは心の中でシャリに――縋ってる。
だってあたしにとってシャリはいなくちゃいけない人だ。
シャリはあたしをあの灰色の世界から、一番最初に連れ出してくれた人だもん。パパもママもやってくれなかったこと、あたしにしてくれた人だもん!
「君はいい子だね。それに、頭がいい」
シャリはそう言っておもむろに手を差し出した。雲に隠れていた月が切れ間から覗き、やんわりした微笑みを浮かび上がらせる。
「だから余計なものまで見えちゃって、ずっと辛かったんでしょう? かわいそうに」
あたしは、彼の指し出した手を、まるで神様の像を見るような顔で見上げた。
人形みたいにきれいで小さな手。昔憧れたお姫様がホントにいたら、きっとこんな手をしてるんだろう。
その手を取ろうとして、何故か紗那の顔が脳裏を過ぎった。思わず手を止めて、シャリの顔を見上げる。
どうしてこんな時に紗那の顔何て浮かぶんだろう?
戸惑いを隠せないまま、シャリの手と、彼の顔を見比べる。
するとシャリは映画の中に出てくる人みたく、上品に首を傾げた。月光に照らされて、艶々した髪に光が滑った。
「僕の所までおいでよ。そうすれば君が求めるものは手に入るんだ。だって僕は誰よりも君を理解してる。……僕が一番君を愛してる」
再び月が雲の中に隠れ、シャリの表情も闇へと消える。
目から、じゃない。胸の奥、ずっと深い所から、冷たい涙が込み上げた。
シャリの言う通りだ、あたしはずっと苦しんで来た……口では色のある世界を求めてても、それは本当に必要だったものの代替え品に過ぎないんじゃないかな。本当はずっと、無条件にあたしを受け入れてくれる人を求めてたんだ――……
ちらついていた紗那の面影を振り払い、そっと手をのばす。
気がつくと息が止まってた。暗闇の中、おずおずとあたしの手が彼の手に近づく。
そして。
あたしは、震える手で、その人の手を、取った。
シャリはそのままあたしを抱き寄せて、耳元でこう囁いた。
「メイ……どんな頼みでも聞いてくれるよね?」
もしかしたらその時、あたしは月の魔力に魅せられて、おかしくなってたのかも知れない。
でもそんなこと言われてどうしてあたしに、首を横に振ることが出来ただろう。