COLORs(17)


 榊原はあたしが視線を戻すと同時に、超然と話を続けた。そうしていると、まるで神様みたいだ。
「この町で猟奇殺人事件が起きているのは知っているだろう?」
「……まぁね」
 あたしはぶすっとしながら、頷いた。

 知ってるどころか、襲われたことだってある。でもアレは、結局シャリが引き起こしたことだったんだよね。
 ……襲われた時はひたすら怖かったのに、シャリが関係していると分かると、すぐにほっとする自分がいる。

 あたし、どうしちゃったんだろう?

「あれは全部シャリがやっていることだ」
 と、榊原。あたしは髪をかきあげて、挑戦的に笑った。
「それも知ってる」

「シャリは、」
 と、榊原はあたしの言葉を無視して続けた。

「自分の世界から多数のティラの子、モンスター――この町で暴れている化け物や、そこにいるフェンリルのような怪物――を連れて来ている。奴は彼らを使ってこの町に恐怖と混沌を広げようとしている」
 榊原はそう言って、薄い唇をいったん閉じた。思い悩むように視線をさ迷わせている。

 ……?

 あたしは、彼の話を聞いていて妙に思った。『奴』と口にしたその時、榊原は心の底から――演技なんかじゃなく――憎しみの表情を浮かべてたから。

「そして、モンスターは」

 あたしは我に返った。つい考え込んじゃって、話を聞いてなかったみたい。榊原は少し不愉快そうにあたしを見てるけど、もう悩むような顔はしてない。超然と、全てを拒絶した顔をしてる。

「普通、なかなか人間に懐かないんだ。人間を憎悪していると言ってもいい」
「え?」
 あたしはきょとんと聞き返した。間抜けな顔をしてたのかな? 榊原の口元が馬鹿にするみたいに曲がった。

 ムカっと来たけど、今は保留。そしてパールを振り返った。尻尾を振ってるパール。全然、憎まれてるとは思えない。

「信じられないかい?」
 自嘲気味な声に視線を戻すと、榊原はつまらなそうに顎をしゃくった。

「なら、試しにそのフェンリルを僕に近寄らせて見るといい。君の命令なら、きっと聞くだろう」
「そんなこと言ったって」

 あたしはちょっと困った。困ったけど、シャリと出会ってからと言うもの、困ることには慣れてる。

 覚悟を決める。恐る恐るパールに向き直って、榊原の方を示して見せた。首を傾げるパール。
――……あの男に近づいて?」

 不思議な事が起こった。パールはあたしの言葉を理解したのか、一声鳴くなり、突っ立ってる榊原に向かってのしのしと近づき出したのだ。

 本当にあたしの言うこと聞いた!

 あたしが感動してると、パールはてくてく近づいて、榊原の前で足を止めた。クゥンと鳴きながら、「これでいい?」とでも言うようにあたしを振り返る。

「パール、ありが――
 とう、と続けようとしたその時、榊原がおもむろに、パールの方へ向かって手を差し出した。

 ドクン、と嫌な予感が背筋を這い登る。

 何? なんなの?

 あたしは何かを掴むかのように、パールに手を伸ばした。でもパールはそれより早く、榊原の腕を獰猛に睨み付け、威嚇するようにうなる。それでも榊原が触れようとすると、パールは、いきなり榊原の細い喉目掛けて飛び掛った。

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当て馬状態で哀れなパール。
これでも作者はパールが好きです。