「――パール!」
パールは止まらない。榊原に向かって鋭いカギヅメを振りかぶり、そして――
「キャインッ」
何か見えないものに弾かれたかのように、地面へと倒れこんだ。苦しげに痙攣している。
「な……なに?」
目の前で起きたことに、呆然とする。
パールがいきなり化け物みたいになって榊原に飛びついて。……気がつくとパールは地面に打ち付けられて喘いでた。
「分かっただろう?」
ハッとする。
気づくと、榊原がいかにも面倒くさそうにあたしを見てた。
「分かったって何が」
「モンスターは人間を憎む。普通はね。それなのに君は何故かどんなモンスターにも害されることなく、それどころか手なずけてしまっている。君は特殊だ」
「あたしが……特殊?」
言われたことの内容に、頭が追い付かなかった。
……違う。それよりも、
首を振る。榊原を見つめ返し、あたしは口火を切った。胸が、ドキドキしてる。
「パールに何したの? その力は何?」
ちゃんと見てた。パールが榊原に触れようとしたその時、まるで榊原を守るみたいに、一瞬だけど薄い光が走って、それに弾かれるようにパールは倒れたのだ。
……やっぱりこの人も、シャリの仲間なんだ。
答えを待っている間、信じられないくらい胸がドキドキした。シャリと初めて出会った時のそれより弱いけれども、確実に同種の期待だ。
榊原は果たして、口を開いた。
「……君には関係ない」
そっぽを向いてしまう。
あたしはがっかりして、俯いた。
ちょっとくらい教えてくれたっていいのに。
でも無理強いは出来ない。聞きたかったのは、あたしのわがままなんだから。
「どうせいずれ分かることだ」
榊原はあたしがしょんぼりしてるのを見かねたのか、言い繕うようにそう言った。
「……もういい。今度シャリに聞くから」
あたしは弱気を見せたのが恥ずかしくなって顔を上げた。
「で、榊原。結局、何の用があってこんな所に連れ去ったの?」
挑戦的に言ってやると、榊原は出鼻を挫かれたような顔で一瞬黙った。でもすぐに表情を消す。
「シャリに頼まれたんだ。君に仕事を頼みたい」
あたしは咄嗟に何も言えなくて、黙った。
仕事? シャリからあたしに? だって、あたしの仕事は紗那に近づくことじゃなかったの? その仕事に、何の意味があるのかは、あたしもよく分かってないけど……
榊原は首を振る。まだ痙攣して辛そうなパールに近づくと、いきなり足蹴にした。
目のずっと奥で火花が散ったような気がした。一瞬目の前が真っ赤になって、自分を抑えられない。
「な――何してるの!」
悲鳴みたいな声があたしの口から漏れた。
榊原は酷い。パールが苦しそうに呻いても、何も感じないような顔で踏みつけてる。
「君はモンスターを扱うことができる。こいつらを人にけし掛けて、殺せ」
榊原は言った。
あたしは。
――言葉も、出ない。