「殺す……って、あたしが?」
どうしてだろう。あたしは色のある世界のため――刺激的な世界のためだったら何でもするつもりだった。それなのに、言葉も思考も詰まってしまって出てこない。
榊原はそんなあたしを、暗い目でじっと見てる。
殺す? あたしが? 誰を? ――この町の人を? パールや、他の……も、モンスターをけしかけて? あたしが操って? モンスターが、あたしの言うこと聞くから?
「でも――だって!!」
激しい調子でまくしたてた。
「あたしがやる必要、ないじゃん! だって今まではモンスターたち、アンタ達の言うこと聞いて町の人を襲ってたんでしょ? だったら今のままでも十分じゃん。テレビだって新聞だって、毎日この町の名前が出て、人が死んだって言ってる。皆怖がってる、恐怖してるよ。あたしがこれ以上やる必要なんて、どこにもないでしょ!?」
「人材がいないんだ」
榊原は冷静に返した。まるでアンドロイドみたいに表情のない顔で言う。
「僕やシャリは、モンスターを出すことは出来ても操ることはできない。だから人のいそうな場所で待ち伏せて襲うしかない。制御が出来ないから、目的の人物を殺せても、その後は野放しだ。今の状態は効率が悪すぎる。もっと多くの人間を殺し、闇にまぎれなければならないんだ」
「そっ、」
「だから直接モンスターに命令を出して操れる、君のような存在は貴重なんだよ。この仕事は君にしか出来ない。君が必要なんだ」
言葉の内容とは裏腹に、淡々と、今にも自殺しそうな顔で榊原は言った。
「あたしは……」
俯いた。頭がぐちゃぐちゃで、何を言っていいのか分からない。
モンスターを……けしかけて……人を……
「やるか、やらないか」
榊原に促されても、咄嗟に答えられない。
どうしよう。
「……考えさせて」
あたしは結局、そう口にするより他なかった。
即答なんて出来ない。どうしてだろう。シャリと出会った頃だったら、二つ返事で頷いたはずなのに。
どうしてだろう。
目の奥がツンとなった。泣きそうになる。
「きみは」
あたしは慌てて目をこすり、顔を上げた。榊原が真剣な表情で見てる。
「君は、シャリが好きかい?」
「――……」
あたしは目を逸らした。
「好きよ。嫌いだったら協力しない」
「そう――……か」
榊原は何故か辛そうに、目を伏せる。
「気をつけた方がいい」
気がつくと、榊原はすでに背を向けて、闇の中に消えて行こうとしていた。
「待っ……」
「シャリは人を幸せにしない。ただ願いを叶えるだけの存在だ。そして今あいつが叶えようとしてるのは、君の願いじゃない」
後姿が、闇の中へと溶けるように消えた。
後を追ったけど、不思議なことに、もう誰もいなかった。目をすがめていると、カチャンと音がして扉が開き、右手から光が差し込んだ。