墓場で呆けているあたし。
見かねたように、肩の辺りで破裂音がした。
不意をつかれてよろめき、そちらを見遣る。と、緑色のミニドラが、空中で寝そべりながら珍獣を見るような目であたしを見てた。
どっちが珍獣だ。
と思ったけど、言いかけたところで馬鹿馬鹿しくなってやめる。
ブレーズはそんなあたしを見ると、どうでも良さそうに欠伸をした。
『ふあ〜ぁ、最近のお前ってホント退屈だよなぁ』
「……何が言いたいの?」
ブレーズはクルリと宙で一回転した。
『ジメジメしやがって。最初の頃の憎まれ口はどうしたよ』
あたしは黙った。何でこんなタイミングで、こんな事言われなきゃならないんだろう。
ブレーズは、まるでため息をつくようにポッと炎を吹き出す。
『……まッ、いいけどな。ンなことどうでも。それよりお前、エルファスに頼まれた仕事どうするつもりだよ? 何なら俺が伝令してやるぜ?』
あたしは目をこすって、ブレーズを見返した。
「……エルファス? 誰よそれは」
『? ――ああ、榊原のことだよ。あだ名みてぇなもんだからあんま気にすんな』
あたしは答えに窮した。……でも今は、「あのこと」について考えたくない。首を振る。
「今は……ちょっと待って、ブレーズ」
しんみりつぶやいて、墓石に向き直る。手を合わせて、目を閉じた。
『お袋さんよー。美人だったなぁ。お前の姿見れて嬉しかったと思うぜ』
慰めるつもりなのか、ブレーズがふよふよとあたしの近くまで来て言った。
「うん、」
あたしは素直に頷いて、そっと墓石を見つめた。もうあの光はないけれど、初めて見た母さんの姿はよく覚えてる。母さんの写真はあんまり残ってなくて、祖母はそれを大事に取っておいてあたしに見せようとはしなかったから余計心に残った。
しばらく、墓石と向き合っていた。
ブレーズも何も言わずにあたしの姿を見守っててくれてる。
風向きが変わったのか、じめじめしてない爽やかな風が動いて、あたしの頬を撫でた。
……その時、不意に予感。誰かが来る。あたしに話しかけに来る。
あたしには……何となく、誰が来るのか分かってた。
声を掛けられる前に振り向くと、やっぱりその人が立っていた。
彼は虚をつかれたかのように首を傾げる。
「あれ? 僕ってそんなに騒々しい?」
そう言ってクスリと笑ったのは、シャリだった。学校から来たのか、似合わない制服を着て、風に揺れる黒髪を押さえてる。
「何となく……分かった」
あたしは曖昧に答えて目を逸らした。母さんと話した時から、妙に神経が鋭敏になって……まるで何かの力を分けてもらったかのようだったなんて。母さんを軽蔑してたあたしにそんなセリフ、言えない。
「……メイ」
シャリは何故か、確かめるような調子であたしの名前を呼んだ。びっくりして見返すと、シャリは不意にあたしの横を通り抜けて、母さんの墓石に手を触れる。
「悪いけど、聞いちゃった。メイとお母さんの話。アハハっ」
シャリは明るく笑った。
よく言うよ。最初から、ある程度こうなることが分かってて、あたしに墓参りへ行けと行ったんじゃないの? バレバレじゃん。
もうここまで来ると、何もかも策略に思える。あたしはため息をついた。それでも、構わない。
「いいよ。別に、それは」
聞かれて困る話でもなかったし。
あたしの言葉を聞いたシャリは、わざとらしく目を見開いた。
『……よく言うぜ。こいつのお袋さん実体化させたのもお前だろーに』
半眼になって話を聞いてたブレーズが、ぼやいた。