COLORs(25)

 ――? どういうこと?

 あたしはシャリに視線を向ける。彼はヒョイと肩をすくめた。

「あーあ。ばらしちゃった」
 言葉の内容と裏腹に、シャリは冗談めいた仕草でそう言う。どうも答えてくれる気がないようなので、仕方なくブレーズを見ると、奴は失礼にも『けッ』とそっぽを向いた。

「ブレーズ、どういうこと? 今の母さんとシャリがどうしたっての?」
 問い詰める。ブレーズは、一瞬チラリとシャリの方をうかがい、また逸らした。

『いつか言っただろ。シャリに出来ないことなんてねェんだよ。何もな……』
「買いかぶりだよ」
 シャリは、意外なほど冷たい目をブレーズに向けた。

 ぞ、と背筋を悪寒が駆け上がる。あたしはかろうじて表情を取り繕ったけど、シャリが再び微笑む瞬間まで息も出来なかった。

 さっきの視線なんてまるで無かったかのように、彼は笑い声を上げる。
「アハハっ――君のお母さんは、強く強く望んでいたんだ。君に会って、その腕で君に触れたいと。よっぽど未練だったんだろうね。あまりにも強い願いだから、叶えてあげた」

 と言うことは、つまり……シャリがあたしと母さんを会わせてくれた?
「そんなこと出来るんだ……」

 シャリは、あたしのつぶやきを無視した。くすくす笑って、
「だけどようやく分かったよ。メイがどうして人間不信になっちゃってたのか」
 といきなり、突きつけるように言う。

 あたしはうろたえながらも、何とか返事を返した。
「え? 何それ……どういう意味よ?」

「だってメイ、覚えてる? 最初に会った日に僕が『たとえ肉親を殺せと言われても、僕の命令に従える?』って聞いたら、確かに頷いたよね。ねぇあれってもしかして、嘘?」
「違っ、あの時は――本当に――
 あたしは答えに窮した。疑われてるの? そんなの嫌だ。あの時は本気であたし、

「分かってるよ」
 でもシャリはあっさりそう口にする。

「知ってるよ。あの時はメイ、本気で親でも殺すつもりだったんだよね。あの時そう指示したら。君はきっと躊躇うことなく従ったんでしょ?」

 あたしはまるでナイフを喉に突きつけられたみたいになって、全然動けなかった。
「そ……うだけど、」

「あの時町の人を殺せって言ったら、きっとメイはやってくれたんだろうなぁ」
「……あの時は……」

「ねぇ、教えてあげようか。何であの時君が僕に協力を申し出たか。そんな心境になったのは何でか」

 彼は、まるでとっておきの事を話すように、唇に手をあてた。いたずらっぽい笑顔。あたしはただ無意味に荒く呼吸するだけで、言葉が出ない。

「君はね、誰も信じられないんだよ」
「え……?」
「だって君の父親すら君のこと愛してくれなかったもんね。ねぇ、これまでの人生で、メイは一体どれだけの人に愛されたの? 君が死んだら、誰が泣いてくれるの?」

「……」
 あたしはすぐに答えようとしたけど、喉に何かが詰まったみたいに言葉が出なかった。頭がくらくらする。あたしどうすればいいのか分からない。もう、分からない!

――だって、シャリは言ってくれたよ、愛してるって……」
 結局出たのは、そんな益体もない言葉。

 シャリは当然のように笑い飛ばした。
「あれ? 言わなかったっけ? 僕は――

『やめろよクソガキ!!』

 あたしとシャリの間を遮るように飛び出したのは、ブレーズだった。熱い。ブレーズの怒気に反応するように、周囲の温度が上がってる。

『お前、それ以上言うなら許さねーぞ! そこまで言う必要どこにもねぇだろうが!!』
 尻尾をしならせ、威嚇するようにブレーズが吼えた。

 シャリはおどけたように一歩下がって見せ、肩をすくめる。
「あー、怖いなぁ、もう。分かったよ。でもさ、あの時メイ、言ったよね」

 彼は目をすがめ、ブレーズの肩越しにあたしを見つめた。

「僕の頼みは聞いてくれるって」

 あたしはもうほとんど泣きかけてるけど、何とか唇を食いしばって耐えてた。もう後一言でも何か言ったら、目にたまっているものが流れてしまいそうだったけど、何とか口を開く。

「そうだよ。あたし……シャリのためなら何でも出来るよ」

 あたしは涙がこぼれる前に、自分の目をぬぐった。ブレーズが、それをシャリから隠すように移動する。
 シャリの笑い声が響いた。

――でも今は出来ないんだ?」
「そ――そんなことないっ」
 咄嗟に答えた。すぐさまシャリの声が返ってくる。
「嘘だよ。メイには無理なんじゃない?」

 嘘じゃないのに。……嘘じゃ、ないもん。

 あたしはひたすら悲しかった。

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シャリ鬼畜。