COLORs(26)

 ――……あたしはまずい事を言おうとしてる。それは分かったけど、口を開かずにいられなかった。そうすることで、……あたしが手を血に染めることで、もしシャリにとって一番大事な人と同じくらい好きになってもらえるなら。その可能性がちょっとでもあるなら……

 愛してるって、言ってもらえるなら。

――出来るよ。ただ、榊原とか言う変なのに切り出されたせいで混乱しちゃっただけだもん」
 あたしはついに言った。

「へぇ。ホントに?」
 からかうように、ハナから信じてない声で、シャリが言う。

 馬鹿にしてるの?
 あたしは叫んだ。
「出来るよ!」

 シャリは口の中で小さく笑い、口元に妖しげな笑みをたたえたまま上目遣いにあたしを見た。
「……ねぇ、じゃあ、聞いていい?」
「いいよ。何?」

 質問の内容は、多分……あたしの母さんに関わること、かも知れない。こんな場所で聞くならそれくらいだ。予想できたけど、あたしはもうどうでも良かった。

「メイのお父さんは何をしてる人?」

 ――あたしは虚を突かれた。母さんのことじゃなく、父さん?

「……捜査官。知ってる? FBIって有名な組織の」

 あたしは相手の意図が分からないから、どんな仕草も見逃さないようにじっと彼を見つめて答えた。

「……くすっ、そっか。じゃ、さぞかしお仕事も忙しかったんだろうね?」

「確かにパパはアメリカで勤めてるし、ほとんど帰ってこないけど……だから何?」

「あ〜れ〜? おっかしいなぁ。君のお父さん、今まで一度も君の部屋に入ったことないでしょ。この国に帰って来てもほとんどホテル泊まりでさ。聞いた話じゃ恋人もいるみたいだね。――恋人って言うより、愛人かな? ねぇ、分かってるんでしょ。本当は、自分が父親に愛されてないってさ。無視されてるって気づいてるんでしょ?」

 あたしは二の句も継げない。いつの間にそこまで調べてたの? どうしてシャリはそんなこと知ってるの?

 頭が混乱する。汗が吹き出た。
「だ、……から何? 確かにパパは……父さんは……あたしのことなんて……」
「殺しちゃいなよ。そんな父親」
「え……?」
 シャリは呆気に取られてるブレーズを押しのけて、あたしに近づくと、肩を掴んだ。

「何でも出来るんでしょ? 僕のためなら。じゃあ出来るよね」
 シャリは何を言うの? どうしてあたしが父さんを殺さなきゃいけないの?

「……そんなことしなくても、あたしちゃんと町の人殺せるよ!」
「信じられないなぁ」
「……っ! あたし、」
「だって先に約束破ったのはメイでしょ? エルファスに聞いたよ。嫌そうにしてたって」
「……!! 保留しただけで、」

「信じられないよ。メイ。まだ僕に協力するならさ、ねぇ、信じさせてよ」

 あたしの肩はいまや、うるさいくらい上下してる。うまく息が出来ない。耳の辺りまでカーッと熱くなった。

 ……確かにあたしは一度怖気づいた。だけどまだシャリの側にいたい。シャリの役に立ちたい。何でも出来るって言ったのは本当だ。心の底からそう思ってる。嘘じゃない、嘘じゃないことをシャリに分かってもらわなきゃ。

 でも……
 あたしはちらり、と、母さんの墓石に目を移した。

 母さん。

 その時フッと、あたしの頭を薄い思考が駆け抜けた。
 ……待って、おかしいよ。

 ハッとなる。

 おかしいよ。どうしてあの時、榊原はあたしとブレーズを引き離して話したの? そもそもそんな連絡、ブレーズにさせるか、シャリ本人がやればいい。
 なのにどうして榊原はわざわざあたしと二人になって話そうとしたの?

 直感めいたものが走った。

 シャリだ。
 そうに決まってる。

 シャリがそういう風に指示したんだ。あたしが断るように、躊躇するようにそう仕向けたんだ。

 でもどうしてシャリはわざわざ……

 決まってる! この状況を作るだめだよ。こういう風にあたしを追い詰めて、そして……さらに抜け出せない所まで引きずりこもうとしてるんだよ。だっていくらあたしでも、父親まで殺しちゃったらもう後戻りできないもん。
 シャリはそうさせたかったんだ。

 最初から本当に全部、シャリが仕組んでたんだ。

 あたしの心は砂漠のように乾き切ってた。シャリがそういうことをした事よりも、信用されてないことの方がショックだった。

『おい……』
 ブレーズがどこか心配そうに声を掛ける。あたしは薄く微笑み返した。
 シャリの目を、真っ直ぐ見返す。
 
 もう、いいよ。シャリがそこまでしてあたしを引きずり込みたいって言うなら、あたしはそれに答える。どこまでも堕ちてやる。

 あたしは微笑んでるシャリに向かって、答えた。
 YESと。

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やっぱりシャリの策略だったみたいな。