COLORs(37)

 湿っぽい嗚咽の声が響いていた。御羅田は必死で自分の声を抑えようとしているみたいだけど、あまり苦労は報われてない。
 あたしはその背を優しく撫でてやりながら、視聴覚室内を見渡した。虚脱したようにリーダー格の少女がへたり込み、リュウトウはその彼女を監視するように壁に背を預けている。
「……大丈夫?」
 そっと声を掛けると、御羅田はしゃくりあげながら頷いた。何とも痛々しい。

 そろそろこの教室を出た方がいいのだろうが、まさかこんな格好の御羅田を移動させるわけに行かない。あたしは内心ため息をつきながら、きょろきょろと辺りを見渡した。

 そう言えば、ブレーズはどうしているのだろう? まだ下の階を探しているのだろうか……だとしたら馬鹿だ。
 考え込んでいると、御羅田の温かい手があたしの腕に触れた。
「……シャナ?」
「もう、大丈夫……ありがとう、メイちゃん」
 御羅田は泣きはらした目で気丈にもリュウトウとあたしを見遣り、青ざめた顔で微笑んだ。
「助けてくれてありがとう、メイちゃん……それから、あの、あなた……リュウトウ君も」
「いや、俺は」
 リュウトウはいささか狼狽したように目を瞬かせ、逸らした。御羅田の顔が曇る――

「ムカつくのよ!」
 突然、今までへたり込んでいた少女が叫んだ。指先がぷるぷると震え、眉が吊りあがっていた。こちらを睨み上げている。こちら――御羅田を睨んでいる。

「お前、いつもそうやって誰かに甘えてさァ、勅使河原がお前に優しくし出してからますますそうなっただろ! 甘えれば誰かが何とかしてくれるとでも思ってんだよなァ!? ふざけんな!! お前のどこに守られるだけの価値があるっつーんだよ! ねェだろそんなもんはよ! お前は最低の殺人者の娘じゃねぇかよそんな価値どこにもねェんだよ! お前が幸せになる権利なんてな、どこにもねェんだよ!!」
 掠れた声で必死に絶叫している。まるで悲鳴のようだった。

 リュウトウが何か言いかけたのを視線で制し、御羅田は強い顔で少女を見つめた。

「そう。私は、殺人者の娘だよ。でも、私が人を殺した訳じゃない。私が殺した訳じゃ……ないんだよ!」
 御羅田の目に涙が浮かび、それが頬を伝ってぽろぽろと落ちた。ハッとしたように、少女が黙り込む。

 ……御羅田にしても、その事でずっと偏見を受けて生きて来たのだろう。だから御羅田は、いつも自分を殺人者の娘として、どこか卑下して生きて来たんだ。でも本当はそんなの間違ってる。だって御羅田は何一つ悪いことなんてしてない。誰よりもまず、御羅田自身が自分を認めてやらなければならなかったのだ――

 あたしは、御羅田の背に置いていた手をそっと離した。

 少女は一瞬硬直したものの、また顔を跳ね上げた。
「お前が――

 その時、だった。
 突然、少女の言葉を遮るように爆音が響く。振動にぱらぱらと何かの破片が降り注ぎ、埃がもうもうと舞い上がった。あたしは手で顔をかばいながら、何が起きたのかと目を細める、と――

「嘘、なに、これ……」
 女生徒の呆然とした声がする。
 教室の扉が破壊され、そこに一匹の黒い獣がたたずんでいた。否、獣ですらない。三対の首、ライオン二頭分ほどにも大きな体、禍々しく光る赤い目。
 そこに居たのは、『化け物』だった。

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 また短い……orz
 でも、ここが一番切りのいい所なので。