2 その剣に、花束を
優しい風が吹く丘の上。
ナルドとペネロペは、二人して花束を抱え、楽しそうに歩いていた。
二人は引っ越していた。三年ほど前に、知り合いの少女が死んで以来、悲しみを堪え切れず、彼女の生まれた村に墓を作って毎日のように通った。
ペネロペは少し盛り上がった自分のお腹に触って、「動いたみたい」と夫の顔を見上げる。
ナルドは、微笑みを返した。こうして、幸せにいられるのも――
ペネロペはふと、戸惑い顔で足を止めた。ナルドが微笑みを消して、問うような視線を投げる。
彼女は、丘の中心にぽつんとたてられた墓標を指差した。
前に見た時はなかったものが、そこに刺さっている。
訝しげな顔で近づいてみると、美しい剣だと分かる。ずいぶん長い剣で、淡い紫色をしていた。細工が美しく、とても高価そうに見える。
顔を見合わせ、二人は首を傾げた。自分たちが持った花束を見下ろす。
どうしようかと悩んでいると、新たな命を告げるような風が吹いた。ペネロペが「あっ」と声を上げる。花束が彼女の腕からこぼれて、墓石の前に落ちた。
ペネロペは慌てて拾おうとするが、ナルドがそれを止める。
ナルドは、黙って太陽に光り輝く剣の前に、花束を寄せた。
彼は妻の、訝しげな視線に笑顔だけを返して、踵を返した。ペネロペは夫の後を追う。
彼女は一度だけ、振り向いた。あの人の名前と、その剣が寄りそうように立っている。
花束が、風に揺れた。花びらが一枚きり、舞い上がった。
END
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